2009年 05月 13日
妖かしの旅、妖かしの夢。 |

20代の終わりに読んで、とてもおもしろかった(ことだけは覚えている)
澁澤龍彦の『高丘親王航海記』(文藝春秋)。
いつかもう1度、と思いつつ、ただただ月日が流れていったのでした。
先日やっと再読しましたが、へぇ~こんな話だったっけ?と、
まるで初めて読むような楽しさ…たははは。
そもそも高丘親王は実在するのか、とそんなところからすでにトホホな私でありますが、
この方は9世紀に本当にいらしたんですね。
供を連れて天竺を目指しましたが、その後消息不明となったそうです。
お話の方は、安展・円覚の2人の僧、そして少年秋丸と共に天竺行きを果たそうとする高丘親王が、
唐の広州の港から南下して、真躐(カンボジア)・盤盤(タイ?)・アラカン(バングラデシュ)・
南詔国(雲南)・ベンガル湾の魔の海域・スリウィジャヤ(インドネシア)などを巡りながら、
人の言葉を話す儒艮(じゅごん)や大蟻喰い、人間の夢を食べる獏、
鳥の下半身をした女、犬頭人、卵生の美少女、
毒々しい巨大な花ラフレシアの上でミイラになるさだめの王女たちと出会います。
時間や空間が交錯し、謎が謎のまま放置され、
さながらラテンアメリカ文学のような不思議な味わいのあるこのお話は、
古今東西の圧倒的な知識の集積から抽出した美しいエッセンスをふりかけた、
エキゾティシズム エロティシズム ロマンティシズム満載の幻想譚。
…なんだけど、この高丘親王、齢67にして少年のような好奇心とお茶目さを持つ、
チャーミングなお人柄。
加えてお供の2人、安展・円覚も、なんだか黄門様にお仕えする助さん格さんみたい。
あちこちにくすくす笑えるユーモアがあり、楽しめます。
weekend booksの「日本の作品」でもご紹介しています。

で、こちらは以前夫が買った『キルヒャーの世界図鑑 よみがえる普遍の夢』。
(ジョスリン・ゴドウィン 著 川島昭夫 訳 工作舎)
ルネサンス最大の幻想科学者アタナシウス・キルヒャー(1602-1680)は、
「万象に首を突っ込んだ奇人であり、珍奇なものの蒐集家であり、韜晦(とうかい)趣味のある一級の学者」で、
その著作は「古代エジプトとその言語、その象形文字、エジプト起源の文明を有するという支那、
磁気学と磁石、音楽、天上界・地上界、光と影、暗号の秘密」などに及び,
「純粋科学とオカルト学、正しい判断力と非常識、百科全書的構成と奇事異聞との混淆」だったそうな。
(ユルギス・バルトルシャイティス 裏見開きより)
解説は澁澤龍彦・中野美代子・荒俣宏と、これまた博覧強記のお歴々。

『シナ図説』のこの絵、
あら、『高丘親王航海記』の箱の挿画はこれを反転させたものだったのね~!
なんだかぴったり。
他にもこんなのや、

こんなのは、結構好きなんですが、

地球の内側で火が燃え盛り、四隅では顔だけの天使がしかめ面をして口からゴォ~と息を吐いてる様が、
みっちりと描かれた銅版画(どんなんだ!?)などは、
夜ひとりで見るにはあまりにもコワすぎる…ぶるぶる。
奇々怪々、凡人にはとても理解できないキルヒャーワールド、
こんな本を出してたなんて、すごいぜ工作舎!
…遅っ。
by weekendbooks
| 2009-05-13 00:51
| こころに残るもの(本)