どこかに行ってしまった本たち、もしくは未来を夢見て眠る本たち その1。 |
携帯やパソコンで読んだりするようになると、
そのうち紙でできた本というもの自体が無くなってしまうんじゃないか。
けれどもやはり、紙に印刷されてできあがった「本」というものの、
紙の質やその形、装丁、大きさ、フォント、添えられた写真や挿画などなどを、
手で触り、目で楽しみ、匂いをかぎ(!)、心で探り、
単に内容を伝える情報ソースとしてだけでなく、
所有する喜びのあるものとして愛おしく思うことは、
きっと廃れたりしないと思うのです。
私のようながんこ者がいるかぎり、たぶん。

さてここに取り出だしたる2冊は、
未だ出版されていない未来の書物のカタログです。
ひとつは『らくだこぶ書房 │ 21世紀古書目録』。
ある日届いた小包の中には、砂にまみれた1冊の本。
それは、「京都・駱駝こぶ書房」から届いた古書目録でした。
ところがこれはただの古書目録ではありません。
何と、西暦2052年の未来から送られたというもの。
目録に記載されている本はすべて、
2001年から2052年の間に出版された(というか、される予定の?)本ばかり。
つまり、この本(というのは、え~と『らくだこぶ書房…』の方ですね、ややこしい)
が出版された2000年現在には、
まだこの世に現れていない本の目録なのです。
さて、どのような本が紹介されているのかというと…

『老アルゴス師と百の眼鏡の物語』2047年刊
ギリシア神話に登場する、百の眼を持つ怪物アルゴスの、老境を描いた大人の童話。
百眼のすべてに老眼鏡が必要になりながら、「寝ずの番」を続ける老警備員と、
彼のために「百の眼鏡」を探す老ヘルメスの物語。

『卓球台の上で書かれた5つの詩片』2012年刊
卓球詩人を名乗る2人、ピング氏とポング氏によって、
卓球をしながら即興的に1行ずつ作っては詠い上げられた詩集。
まん中から左右に開き、右側にはピング氏の、左側にはポング氏の詩が現れるしかけ。

『SMOKING AREA』2040年頃
新宿の、とある細い路地の中ほどにあるバーの2階、
西神田のビルの、踊り場付き外階段など、
いよいよ追い詰められたヘビースモーカーたちのパラダイス
「スモーキー・エリア」を紹介した、「秘密喫煙結社」による秘密の会報。

『大いなる来訪者』2028年刊
17世紀、リリパット王国の住人が書いた、「大いなる来訪者」すなわちガリバーの観察記。
ある小人はくるぶしを、また別の小人はうなじを、さらに別の小人は耳たぶを、と
全部で150名の小人が「独自の視点」で記録した、知られざる「ガリバー旅行記」。
縦58ミリ横44ミリと、外見もミニサイズです。
…とまあこんな具合に、次々と摩訶不思議な本が現れます。
クラフト・エヴィング商會お得意の、すてきな嘘に包まれる幸せ!
もう1冊のご紹介は、また次回。