2011年 02月 05日
『富士日記』 武田百合子 (2010.10.3) |
ボイスキュー エフエムみしま かんなみ(77.7MHz)で昨年10月より、
毎週日曜日の11:30~、
週末にのんびり読みたい本とおすすめの1曲をご紹介している
「SUNDAY BOOK」のコーナー。
どんなお話をしたのか、「ラジオの時間」のカテゴリーにまとめてみます。
(放送では、パーソナリティー佐藤陽子さんとご一緒させていただいています。)
覚え書きその1。
『富士日記』 武田百合子 中公文庫
作家武田泰淳の妻である著者が、
富士のふもとの山荘での日々を綴ったこの本は、
「これは山の日記です」という言葉で始まります。
昭和39年7月から51年9月までの
12年間に渡って書かれたこの日記には、
特別なできごとは何も起こりません。
今日はこんなものを食べたとか、
今日はこんな人と会って、こんなことがあった、と
毎日のできごとを淡々と記しているだけです。
けれども、百合子さんの、ものごとの芯の部分をすくい取る目の確かさや、
思わず笑ってしまうような独特の言い回し、それから言葉の感覚には、
読むたびにはっとさせられます。
生きていらっしゃれば今年で85歳、大正生まれの百合子さんですが、
瑞々しい感覚は今読んでも新鮮で、
ユーモラスな言葉遣いや、とても繊細な観察力には、
百合子さんらしい味わいがあります。
まわりの風景をさらりと書いているだけなのに、
心の内側が見えるような表現などには、
天性の才能を感じます。
都会で暮らす作家とその妻、娘の花さん、そして愛犬のポコが、
富士山のふもとの自然の中でのびのびと過ごし、
土地の人たちと交流しながら、
笑ったり困ったり、時々怒ったりして、
小さなできごとにも目を凝らして楽しむ様子が
活き活きと描かれています。
この本を読むと、生きていくって大変なことが多いけれど、
でもなかなかいいものだなって思ってしまいます。
それから、毎日の食事のメニューも記録されていて、
とりたててご馳走というわけでもないのですが、
なぜかとてもおいしそうで、
こちらも読む楽しみのひとつになるのではないでしょうか。
ここで、ひと夏を山荘で過ごし、
明日は東京へ帰るという日の日記を読んでみます。
昭和四十年八月二十九日(日)晴
夏休みの最後の日曜日なので、
スバルラインも河口湖の町も車の列である。
河口湖は、もう人は泳いでいない。
夕方、車を洗う。
日中は暑かったが夕方になると急速に冷えてくる。
夜は、短かった、永かった、夏のもろもろのあと片づけである。
二度目の夏、山の食物つくりも馴れたし、
買出しも無駄をしなくなった。
今年は去年より、よく泳いだ。
ニスをかけたような私の顔と手足。
冬になるとソバカスがふえているのだろうな。
夜は、いなりずしを作る。明日の焼きにぎりを作る。
また一年経つまで、夏は終り。
日記なので、どのページからでも気軽に読んでいただける作品です。
おすすめの曲
musette 『datum』より 「18 juli」
こちらでちらりと聴いていただけます。
このアルバムについて、以前こんなことを書きました。
毎週日曜日の11:30~、
週末にのんびり読みたい本とおすすめの1曲をご紹介している
「SUNDAY BOOK」のコーナー。
どんなお話をしたのか、「ラジオの時間」のカテゴリーにまとめてみます。
(放送では、パーソナリティー佐藤陽子さんとご一緒させていただいています。)
覚え書きその1。
『富士日記』 武田百合子 中公文庫
作家武田泰淳の妻である著者が、
富士のふもとの山荘での日々を綴ったこの本は、
「これは山の日記です」という言葉で始まります。
昭和39年7月から51年9月までの
12年間に渡って書かれたこの日記には、
特別なできごとは何も起こりません。
今日はこんなものを食べたとか、
今日はこんな人と会って、こんなことがあった、と
毎日のできごとを淡々と記しているだけです。
けれども、百合子さんの、ものごとの芯の部分をすくい取る目の確かさや、
思わず笑ってしまうような独特の言い回し、それから言葉の感覚には、
読むたびにはっとさせられます。
生きていらっしゃれば今年で85歳、大正生まれの百合子さんですが、
瑞々しい感覚は今読んでも新鮮で、
ユーモラスな言葉遣いや、とても繊細な観察力には、
百合子さんらしい味わいがあります。
まわりの風景をさらりと書いているだけなのに、
心の内側が見えるような表現などには、
天性の才能を感じます。
都会で暮らす作家とその妻、娘の花さん、そして愛犬のポコが、
富士山のふもとの自然の中でのびのびと過ごし、
土地の人たちと交流しながら、
笑ったり困ったり、時々怒ったりして、
小さなできごとにも目を凝らして楽しむ様子が
活き活きと描かれています。
この本を読むと、生きていくって大変なことが多いけれど、
でもなかなかいいものだなって思ってしまいます。
それから、毎日の食事のメニューも記録されていて、
とりたててご馳走というわけでもないのですが、
なぜかとてもおいしそうで、
こちらも読む楽しみのひとつになるのではないでしょうか。
ここで、ひと夏を山荘で過ごし、
明日は東京へ帰るという日の日記を読んでみます。
昭和四十年八月二十九日(日)晴
夏休みの最後の日曜日なので、
スバルラインも河口湖の町も車の列である。
河口湖は、もう人は泳いでいない。
夕方、車を洗う。
日中は暑かったが夕方になると急速に冷えてくる。
夜は、短かった、永かった、夏のもろもろのあと片づけである。
二度目の夏、山の食物つくりも馴れたし、
買出しも無駄をしなくなった。
今年は去年より、よく泳いだ。
ニスをかけたような私の顔と手足。
冬になるとソバカスがふえているのだろうな。
夜は、いなりずしを作る。明日の焼きにぎりを作る。
また一年経つまで、夏は終り。
日記なので、どのページからでも気軽に読んでいただける作品です。
おすすめの曲
musette 『datum』より 「18 juli」
こちらでちらりと聴いていただけます。
このアルバムについて、以前こんなことを書きました。
by weekendbooks
| 2011-02-05 01:00
| ラジオの時間