『チャリング・クロス街84番地 書物を愛する人のための本』 ヘレーン・ハンフ (2010.11.7) |
毎週日曜日の11:30~、
週末にのんびり読みたい本とおすすめの1曲をご紹介している
「SUNDAY BOOK」のコーナー。
どんなお話をしたのか、「ラジオの時間」のカテゴリーにまとめてみます。
(放送では、パーソナリティー佐藤陽子さんとご一緒させていただいています。)

覚え書きその6。
『チャリング・クロス街84番地 書物を愛する人のための本』 ヘレーン・ハンフ 作 江藤淳 訳 中公文庫
今日ご紹介するのは書簡集です。
タイトルの「チャリング・クロス街」というのはロンドンにある通りの名前で、
「84番地」は、この本に登場する「マークス」という古書店の住所です。
作者のへレーンは、脚本家で作家でもある、ニューヨークに住む快活な女性です。
彼女が、とある新聞の広告で見つけたのが、
マークスという、絶版の本を専門に扱っているロンドンの古書店なのですが、
ここに、欲しい本のリストと一緒に手紙を書いたことで始まる、
へレーンと古書店の人々との20年に渡るやりとりをまとめた実話がこの本なのです。
へレーンの手紙は、最初こそ丁寧で当たり障りのないものですが、
やりとりを重ねていくうちに、親しみのこもったユーモラスなものになっていきます。
一方、リストの本を探し、返事を書くのは古書店のフランク・ドイルという男性ですが、
こちらは礼儀正しいイギリス紳士といった感じで、丁寧に対応していきます。
やがてお互いに打ち解けあい、軽口をたたいたり気遣いあったりという、
海を越えた友情が続きます。
へレーンとフランクの手紙のやりとりは、
お客とお店の関係から、信頼できる友人同士のようなあたたかいものになっていきます。
例えば、舞台となった1950年ごろ、
イギリスでは食料が配給制で不自由していることを知ったへレーンが、
卵やハムを何度も古書店の人々に送っています。
また、お互いにクリスマスプレゼントを贈りあう場面もあり、
まだ見ぬ遠い国の、本を愛するということで繋がっている者同士の友情が、
ほのぼのと伝わってきます。
最後はちょっぴりほろ苦い終わり方ですが、
それもまた何とも言えないしみじみとした味わいがあります。
この本に出てくるへレーンの探してほしいという本は、どれも古典の名作で、
現代の私たちが普段読むものとは少しかけ離れているのですが、
でも、探していた本に出会えたうれしさや、本を読むことの楽しさ、
装丁や紙質の美しさを大切に思う気持ちなどは、
本を愛する人たちに共通のものだと思います。
まさに、サブタイトルにある「書物を愛する人のための本」。
手紙のやりとりの面白さだけでなく、
本の魅力も改めて教えてくれる1冊です。
おすすめの曲
Sting / Englishman In New York