「秋さわやか」。 |
ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします。
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十月は、ものが爽やかに冷えてくる月です。ひややかとか、つめたいとかいえば、
何かこう情にうすく、親しくないことのように思いますが、
秋の冷えばかりは逆に、情の深いものではないでしょうか。
ゆうべ鏡の前へ外しておいた腕時計を、今朝手にとれば、
ひんやりと冷えています。時計の小さいつめたさと、我が手のぬくみとが、
両方いちどにわかります。時計のようなこんな小さなものが、
小さいなりに秋を堪えて、そっと冷えるのです。
掌にくるんでやりたいような気になります。こころよい冷えは魅力的ですし、
こちらもなんとなく情ふかくさせられてしまうじゃありませんか。
(幸田文 季節の手帖 「秋さわやか」)