2012年 12月 05日
手紙で、ドナルド・エヴァンズに。 |
先月から始まった企画展「A gift ― あの人に、この本を。」では、
さまざまな分野で活躍していらっしゃる方に、
大切な人に贈りたい本を選んでいただき、
メッセージと共に展示しています。
どんな風に展示しようかと考えた時、
メッセージを手紙の形にしたい、と思いました。
最初は葉書で、それから便箋に封筒をつけて・・・とふくらんで、
「封筒にはドナルド・エヴァンズの切手を貼ったら?」という夫の一言で、
何かこの企画展の「芯」の部分が定まったような気がしました。
ドナルド・エヴァンズ。
架空の国の、架空の切手ばかり描いていたこの画家は、
アメリカから、オランダ・アムステルダムに渡り、
わずか31歳で、彼の地で客死しました。
詩人の平出隆さんの著書『葉書でドナルド・エヴァンズに』でその存在を知り、
切手の描かれた画集を手に入れ、
先日すばらしい演奏を聴かせてくださった伊藤ゴローさんのジャケットに
その切手が使われ・・・と繋がって、
今回の企画展にそのエッセンスを取り入れようと思い立ちました。
果物やきのこ、蝶、風車、遺跡のような風景、
色々な種類の野菜、船、鳥、飛行船、
楽器、島、貝殻、点、漢字・・・・・・。
ひとつひとつを切り離し、別々に見てみると、
画集でまとめて見るのとはまた趣が異なり、
一層魅力が増してきます。
あの人に、この切手を、
と選びながら、考えながら。
・・・しかし周りのギザギザを切り取る大変さといったら!
そんな訳で、みなさんのメッセージのすばらしさもさることながら、
貼られた切手にも目を留めていただければと思います。
ドナルド・エヴァンズに贈りたい本は彼の画集。
そして、miracle-mule館長にしてweekend books駐車場係の夫が、
こんな手紙を書いてくれました。
・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・
ドナルド・エヴァンズ
今日もまたあなたの画集を繰っています。
客の姿も疎らな古本屋の片隅で
珈琲を片手に伊藤ゴローのギターを聴きながら
あなたの「架空の国の架空の切手」をぼんやり眺めています。
昨日は海を行く鳥に見とれ
今日は中空に静止した飛行船を眺めやっています。
あなたが1977年に31歳のアメリカ人として
アムステルダムに 客死したとき
僕はまだあなたの作品はもちろん
名前さえ知らない21歳の学生でした。
35年の時が過ぎ平出隆という日本の詩人を経由して
あなたはあなたの年齢を四半世紀も超えた僕の処へやって来て
しっかり腰を据えている。
ドナルド・エヴァンズ
あなたの決して投函されることのなかった切手は
今僕の心の名付けようのない深い場所に届きました。
weekend books 高松 広明
by weekendbooks
| 2012-12-05 23:40
| イベント