2014年 05月 25日
「旅する人」。 |

今月初め、静岡市鷹匠のatelier brahmaさんにお誘いいただいて、
「旅する人 LIBLO E MIO Ⅱ」という企画展に参加させていただきました。
さまざまな人が選ぶ旅の本を、コメントと共に展示するというもの。
残念ながら伺うことは叶いませんでしたが、
とてもすてきな展示だったとか。
どの本にしようかな・・・と迷いましたが、
でもあまり悩まずに頭に浮かんだのは、やはりこの本でした。
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「犬が星見た ロシア旅行」 武田百合子 中公文庫
「やい、ポチ。わかるか。神妙な顔だなあ」
妻を犬呼ばわりするなんて、とあなたは怒るだろうか。
いやいや、作家・武田泰淳氏が、
どんなに妻百合子さんを愛していたかは「富士日記」を読めば分かる。
この作品は、そんな泰淳氏が、
親友のこれも作家の竹内好氏と百合子さんとで訪ねたロシアの旅を、
百合子さんの目を通して綴ったもの。
「百合子。面白いか?嬉しいか?」
「面白くも嬉しくもない。だんだん嬉しくなると思う」
そんなやりとりから始まったこの旅は、
「やい、ポチ。旅行は嬉しいか。面白いか」
「普通ぐらい」となり、
「楽しかった。糸が切れて漂うごとく遊び戯れながら旅をした。」と終わる。
旅というものは、だんだんと、じわじわと、体の中にしみこんでいくもの。
旅先の場所に触れ、人に触れ、空気に触れていくうちに、
いつしかそれが、あたかも日常生活の一部かのように感じていく。
でも、旅はあくまでかりそめの時間。
そのあわいをするりと描くのが、百合子さんは本当にうまい。
この作品の、けれど一番好きな部分は「あとがき」だ。
楽しかった旅ののち、
ひとり、またひとりとこの世を去った愛する人たちに思いを馳せるその描写。
自由奔放に見えて、やはりそこには、
繊細な震える魂を持つ詩人の百合子さんがちゃんといる。
きっと今頃、百合子さんがさっと作ったつまみを肴に、
愉快な宴会が続いているのだろう。
泰淳氏と竹内さん、百合子さんの大好きな銭高老人と共に、
宇宙船と化した飛行機の中で。
weekend books 高松 美和子
by weekendbooks
| 2014-05-25 13:39
| こころに残るもの(本)