2006年 10月 29日
『ひとりよがりのものさし』。 |
目白の「古道具坂田」の店主、坂田和實さんが、
芸術新潮に連載なさっていたものをまとめたこの本を読んだのは、
おととしぐらいだったと思います。
江戸時代の麻の雑巾や平瓦、木でできた昔のパチンコ台、素朴な木のお面など、
坂田さんの審美眼に叶ったものたちが、
美しく静かな写真と共に語られている大判のすばらしい本です。
民藝にも古道具にも縁がなかったけれど、とてもとても魅かれました。
先日、静岡市にある芹沢銈介美術館で、
芹沢にゆかりのある坂田さんの講演会があるというので行ってきました。
東京から移築した、芹沢の住んでいた家。
この日は見学できるということで、訪ねてみました。
ほの暗い家の中、芹沢が集めていたたくさんの民芸品、工芸品が飾られていました。
生活の中にそれらを取り入れ、自らも楽しんでいたという生活ぶりが感じられる部屋。
窓から差し込む光が柔らかくあたりを照らし、
ゆっくりと落ち着いてものごとを考えることができそうな場所でした。
先月の「芹沢銈介の生活デザイン展」でも展示されていた、自らデザインした椅子も、
入り口にちゃんとありました。
本当にきれいな形。
館長さんと一緒に、坂田さんがいらしていました。
コムデギャルソンかワイズ風の墨黒のシャツにグレーっぽいパンツ、
斜めがけバッグといういでたちの坂田さん。
小柄で細身の、すぅっとした雰囲気の静かな印象。
講演会の参加者は、老若男女さまざま。
どの方もきっと、この日のお話を楽しみになさっていたことでしょう。
そんな雰囲気が漂っていました。
坂田さんが初めて芹沢銈介の家を訪ねた時、
たくさん持っていった古道具のうち、芹沢はこれ、と思ったものをさっと手にとって、
後のものには見向きもしなかったそうです。
それ以降も、そのものの背景やら歴史やら、
ましてや値段なども一度も聞かれた事がないのだとか。
好きなものを選ぶ。
ただそれだけ。
潔いのです。
子どものようだ、ともいうけれど。
芹沢銈介は人間国宝で文化功労者で、たくさんの作品を残したえらい人、なのですが、
素直で透徹した眼を持った、純粋な人だったんだなぁと思いました。
坂田さんのお話の中でドキッとしたのは、
「『美しさ』は、その人の感受性の範囲内でしか分からない」という言葉。
だから日常を大切にするのだと。
特別にゴッホを観に行くより、自分の靴下を選ぶ方が大切なのだと。
ものを選ぶということは、自分の歩く道を選ぶということ。
自分自身の「ものさし」を使って。
私も自分のものさしを使って、いろんなものを選んでいこう。
帰り道の駅で、空を見上げて思いました。
ところで今日は私の誕生日。
夫が、欲しかったこの『ひとりよがりのものさし』(新潮社)をプレゼントしてくれました。
(今までは、図書館で借りていたのです。)
そうしてなんと、atelier-fのFuuちゃんからも同じ本が!
もうなんだかびっくりしてうれしくて、そして笑ってしまいました。
どうもありがとう!
by weekendbooks
| 2006-10-29 19:25
| こころに残るもの(本)