2007年 02月 07日
『その名にちなんで』 |
以前の日記で、「装丁大賞があったらあげたいくらい」と書いた、新潮社クレストブックス。
スパイスが並ぶ、印象的な表紙の短編集『停電の夜に』の作者、インド系の女性作家ジュンパ・ラヒリ(美人!)の、第2作にして初の長編が『その名にちなんで』です。
インド・カルカッタからアメリカに移住したベンガル人の両親に、ある重大な理由から「ゴーゴリ」と命名された主人公。
成長するにつれその名前を嫌い、やがて大学進学を機に改名するものの、自由な暮らしの中で次第に感じる、アメリカとインド、二つの母国への微妙な思い。
そして自らが捨てた名前の由来。
父母と自分、二つの世代を流れる哀しみやさりげない優しさを、丁寧な描写で描いた作品です。
ゴーゴリが大学に入学するまでの前半は、正直、ちょっと我慢しながら読みました。
それはまるで、ゴーゴリ自身が、父母やインド系の移民社会に対する態度と同じ。
けれども、彼が大学入学後、ニキルという名前になり、家族のしがらみから徐々に逃れて自由を手に入れる後半は、のめりこむように読み進みました。
インド社会から離れるほど、アメリカ人としての自分がふくらむほど、父母の思いが痛いほど分かってくる。
この辺の筆致がすばらしいのです。
最初は妙に引っかかっていた文体―すべて現在形―も、後半ではむしろリズミカルに、読むことを後押しするようにさえ思えました。
『その名にちなんで』というタイトル、とてもいい邦訳ですね。
映画化も予定されているようです。
(写真右下の〈View the Video〉で動画が見られます。)
翻訳小説が「売れない」時代なのだそうです。
翻訳家との相性もありますし、海外の知らない作家の作品よりも、日本の有名作家のベストセラーの方が「安全」かもしれません。
ただ、こういったすばらしい作品に出会うと、その世界に深々と浸ることの気持ちよさ、読書の喜び、というものをつくづく感じます。
『その名にちなんで』は、次回新着本でご紹介する予定です。
by weekendbooks
| 2007-02-07 20:04
| こころに残るもの(本)