2007年 04月 12日
『桜の森の満開の下』。 |
こちらではもうすっかり葉桜になってしまいました。
みなさんのお住まいではいかがでしょうか。
今年はしみじみと桜を見ることなく、
あっという間に散ってしまったような気がします。
せっかくの1年に1度のお楽しみなのに…と、
なんとなく不満が残ります。
満開の桜の下は、ふんわりとした美しさがありますが、
それと同時に、しいんと静かな冷たさも感じます。
「桜の花が咲くと人々は酒をぶら下げたり団子をたべて
花の下を歩いて絶景だの春ランマンだのと浮かれて陽気になりますが、
これは嘘です。」
という書き出しで始まる、坂口安吾の『桜の森の満開の下』。
続く「桜の花の下から人間を取り去ると怖しい景色になります」という言葉が、
この物語の核の部分を物語っています。
昔、鈴鹿峠に住みついたその山賊は、粗野で残忍な男でした。
容赦なく旅人の着物をはぎ取り、命を奪いました。
ある日、8人目の女房としてさらってきた女の
あまりの美しさに心を奪われた山賊は、
どんなわがままも受け入れ、従いました。
こんな男でも、桜の森の花の下では心が不安になりました。
「花の下では風がないのにゴウゴウ風がなっているような気がしました。
そのくせ風がちっともなく、一つも物音がありません。」
そして「花びらがぽそぽそ散るように魂が散って
いのちがだんだん衰えて行くように思われ」たのです。
山でわがままのかぎりを尽くした女は、
ある日、男に都に連れて帰って欲しいと頼みます。
わけのないことだ、と承知した男ですが、たった一つ気がかりがありました。
それは、桜の森でした。
間もなく訪れる満開の桜の下、
「桜の森の花ざかりのまんなかで、
身動きもせずジッと坐っていてみせる。」と決め、
その不安の正体を見極めようとした男でしたが、
そこにあるのは「虚空」ばかり…。
男と共に都に住み始めた女は、
着物や宝石の他に、その持ち主の首を欲しがりました。
美しいけれど残酷なその女のために、
男はあちこちから首を集め、女に差し出します。
こうして都の暮しが長引くにつれ、
男はわずらわしさがつのり、退屈に苦しみました。
山へ帰ろう。
幾日かさまよったあげく、こう決心した男は、
女を説得して山に戻って行きました。
あの桜の森の下、女を背負って歩いていく途中、
「彼はふと女の手が冷たくなっているのに気がつきました。」
そして「とっさに彼は分かりました。女が鬼であることを。
突然どッという冷たい風が花の下の四方の涯から吹きよせていました。」
この後のすさまじさ、美しさは、ぜひ小説でお読みになってみてください。
30ページほどの短編ですが、
ぎゅっと凝縮された悲しみに満ちた、桜の物語です。
余談ですが、卒論で坂口安吾をとったのはいいけれど、
結局期限に間に合いそうもなく、資料をつぎはぎしてでっちあげ、
惨憺たる成績だったという、別の意味で悲しみに満ちた思い出もある作品です…。
みなさんのお住まいではいかがでしょうか。
今年はしみじみと桜を見ることなく、
あっという間に散ってしまったような気がします。
せっかくの1年に1度のお楽しみなのに…と、
なんとなく不満が残ります。
満開の桜の下は、ふんわりとした美しさがありますが、
それと同時に、しいんと静かな冷たさも感じます。
「桜の花が咲くと人々は酒をぶら下げたり団子をたべて
花の下を歩いて絶景だの春ランマンだのと浮かれて陽気になりますが、
これは嘘です。」
という書き出しで始まる、坂口安吾の『桜の森の満開の下』。
続く「桜の花の下から人間を取り去ると怖しい景色になります」という言葉が、
この物語の核の部分を物語っています。
昔、鈴鹿峠に住みついたその山賊は、粗野で残忍な男でした。
容赦なく旅人の着物をはぎ取り、命を奪いました。
ある日、8人目の女房としてさらってきた女の
あまりの美しさに心を奪われた山賊は、
どんなわがままも受け入れ、従いました。
こんな男でも、桜の森の花の下では心が不安になりました。
「花の下では風がないのにゴウゴウ風がなっているような気がしました。
そのくせ風がちっともなく、一つも物音がありません。」
そして「花びらがぽそぽそ散るように魂が散って
いのちがだんだん衰えて行くように思われ」たのです。
山でわがままのかぎりを尽くした女は、
ある日、男に都に連れて帰って欲しいと頼みます。
わけのないことだ、と承知した男ですが、たった一つ気がかりがありました。
それは、桜の森でした。
間もなく訪れる満開の桜の下、
「桜の森の花ざかりのまんなかで、
身動きもせずジッと坐っていてみせる。」と決め、
その不安の正体を見極めようとした男でしたが、
そこにあるのは「虚空」ばかり…。
男と共に都に住み始めた女は、
着物や宝石の他に、その持ち主の首を欲しがりました。
美しいけれど残酷なその女のために、
男はあちこちから首を集め、女に差し出します。
こうして都の暮しが長引くにつれ、
男はわずらわしさがつのり、退屈に苦しみました。
山へ帰ろう。
幾日かさまよったあげく、こう決心した男は、
女を説得して山に戻って行きました。
あの桜の森の下、女を背負って歩いていく途中、
「彼はふと女の手が冷たくなっているのに気がつきました。」
そして「とっさに彼は分かりました。女が鬼であることを。
突然どッという冷たい風が花の下の四方の涯から吹きよせていました。」
この後のすさまじさ、美しさは、ぜひ小説でお読みになってみてください。
30ページほどの短編ですが、
ぎゅっと凝縮された悲しみに満ちた、桜の物語です。
余談ですが、卒論で坂口安吾をとったのはいいけれど、
結局期限に間に合いそうもなく、資料をつぎはぎしてでっちあげ、
惨憺たる成績だったという、別の意味で悲しみに満ちた思い出もある作品です…。
by weekendbooks
| 2007-04-12 22:12
| こころに残るもの(本)