2008年 03月 20日
『ティファニーで朝食を』。 |
このタイトルを聞いて誰もが最初に思い浮かべるのは、
黒いドレスを着たオードリー・ヘップバーンと、
ヘンリー・マンシーニの『ムーン・リヴァー』。
残念ながらこの映画も観ていないので(ほんとに名作を観ていないのね、私)
なんとも言えないのですが、
訳者の村上春樹さんによれば、やはり小説とは別物というかんじ。
そりゃそうだ、こんなナイーブで「とほほ」な主人公では、
アメリカ映画は成り立たないもの。
(でもそこがいいんだけどね。)
「朝食用のシリアルを思わせるような健康的な雰囲気があり、
石鹸やレモンの清潔さ」を漂わせ、
「十六歳から三十歳のどの年齢と言われても不思議はない」女の子、
ホリー・ゴライトリー。
周囲の男性をたちまち魅了してしまうホリーの、
真上の部屋に住むことになった作家志望の「僕」は、
とらえどころのない彼女に振り回されながらも、
いつの間にかその魅力にひきつけられて…。
なぁんて書くと、いかにも陳腐なのですが、
ホリーの生い立ちや、「僕」のモノローグ、味わい深いそれぞれのキャラクター、
1950年代のニューヨークの街並みの描写、
そして、ホリーとの日々を回想するという設定などが絡み合って、
繊細さとユーモアが漂う1篇になっています。
こんな女の子が近くにいたら、男の子は必ず恋に落ちてしまうでしょうね。
『ティファニー』には、他に3つの短編が収められていますが、
2番目の『花盛りの家』以外はどれも、
失われた時や人を愛しみ、そしてイノセントな世界を懐かしむ、切ないお話です。
最後の『クリスマスの思い出』は、別の短編集に収録されていたり、
山本容子さんの銅版画で単行本になったりしているので、
ご存知の方も多いかと思います。
これはね、もう胸がきゅっと締めつけられてしまう。
『ダイヤモンドのギター』も、「切ない小説ベストテン」を選ぶ時に(いつだ!?)
ぜひ候補に入れたい1篇です。
村上さんの新訳は、ティファニーブルーの表紙に猫のイラストが愛らしい装丁。
(猫はなかなか重要な役割を担っています。)
例によってあとがきも読み応え十分。
隣の、同じく新潮社から出ていた龍口直太郎訳の方は、
1960年に出版されたものの新装版。(1996年発行)
版画のようなイラストや字体、金色のタイトル文字、紙の質感、
そしてなんともいえないこの青。
こちらの装丁もとっても気に入っています。
もちろん同じお話が収録されていますが、
主語の選び方(僕、俺、私、etc…)、文末(です・ます、だ・である)など、
訳者が違うと、印象も雰囲気もずいぶん変わるんだな、と改めて思いました。
村上版はとても読みやすいのですが、
『ダイヤのギター』や『クリスマスの思い出』は龍口版もかなり好きです。
瀧口版はweekend booksでご紹介しています。
それにしても、村上さんて本当に翻訳という作業が好きなんですね。
そろそろ小説の新作も読みたいのですが…。
by weekendbooks
| 2008-03-20 16:33
| こころに残るもの(本)