おいしいしあわせ。 |
(あ、もちろん、新着アップも準備してますよ~)
先日読んだのは『食堂かたつむり』(小川 糸 ポプラ社)。
ある日、仕事から帰ってみると、
インド人の恋人に家財道具
(と、いつかお店を持とうとこつこつ貯めた貯金)一切を持って行かれて、
残ったものは祖母から譲り受けたぬか床だけ、という、
信じられない状況におかれた主人公、倫子。
おまけに声まで出なくなり、
仕方なく、10年前に出てきたきりの故郷に戻ることに。
どうしても愛せない母親ルリコに頭を下げて、
どうにか実家に置いてもらうことになった倫子が思いついた仕事、
それは食堂を開くこと。
今までの仕事の経験を生かし、1日1組だけのお客をもてなす、
という小さな、その名も「食堂かたつむり」。
思いがけない形で夢が叶った倫子と、
この「食堂かたつむり」で出会った人々との交流や、
母親との確執と愛情、料理に対する姿勢などを、
厳しい状況にありながら、
少しずつ(まるでかたつむりのように)
前に進んでいこうとする主人公の心の成長とともに描いています。
かわいらしいタイトルと表紙のイラストに誘われて、
軽い気持ちで読み始めたのですが、
なかなかどうして、すじの通った読み応え。
特に後半のあるシーンでは、
ちょっとびっくりする展開に。
でもこれは、彼女の料理に対する、
そして命あるものに対する真摯な態度の象徴的な場面。
料理をする前に、食材を無駄にしないようにと祈るシーンと重なり、
背すじが伸びるような気持ちになります。
この小説を読んでいて思い出したのは、
もう20年ほども前のデンマーク映画『バベットの晩餐会』。
寒村に住む老姉妹と村人たちの、頑なな心と舌を、
おいしい料理が解かしていく、というお話を、
もう一度観てみたくなりました。